2002年08月25日

独立行政法人

国立オリンピック記念青少年総合センター

理事長

高 為重 様

ミクロネシア連邦ヤップ州ヤップ島在住

安井三惠

 

謹啓、突然このような文書を送付することをお許しください。私はミクロネシア連邦ヤップ州ヤップ島に長年在住し、当地でダイビング及び各種観光ツアー業を営む者でございます。私どものビジネスが「ヤップの人々の将来に生きる地元に根差したツーリズムの振興」の一助になればと、日夜励んでおります。

さて、この8月初旬、財団法人世界青少年交流協会(以後「協会」)と御センター主催により、少年少女自然体験交流事業「ミクロネシア諸島自然体験」というプログラムが実施され、日本から80人の子どもと15人の大人で構成された団体がヤップ島に来島し6日間滞在しました。「協会」のウエブサイトで拝見した主旨は非常にすばらしいものですが、ヤップ現地で実施された内容と、地元へ与えた様々なインパクトは、当地で今後も仕事を続ける一日本人として、このまま見捨てておけぬものを感じましたので、ここに状況をご報告して、御センターのご認識を仰ぎたいと存じます。

1)島内ホテル業者への影響

ヤップには現在稼働しているホテル等の宿泊施設は7つありますが、いずれも客室30以下の中小規模経営です。このプログラムでは3つのホテルが使用され、子どもたちはツイン仕様の部屋に3人から4人で宿泊しました。ホテルとしては通常の定員を大幅に上まるような予約は受けたくありませんでしたが、「狭くてもいいから」と押しきられたそうです。このためトイレなどの浄化槽に支障をきたしたホテルも出ました。また子どもたちが夜遅くまで廊下を走りまわったりドアを開け閉めする音で他の宿泊客に迷惑をかけた例も報告されています。

どのホテルもこのプログラムの予約受け入れには初めから消極的でした。というのは、宿泊費について「団体だから安くしてくれるのは当然」という、ヤップでは通用しない「マスツーリズム」の論理で値切られ、夏場のトップシーズンにほとんどの部屋をこのグループの予約で押さえられているにも関わらず前払い金さえ置いてもらえず、あげくにグループ到着直前まで正確な宿泊人数さえ知らされないという、ビジネスの観点から見ても大変ずさんで非常識な対応に、主催者に対して不安を抱いたからです。

2)島内コミュニティ(村)への影響

80人の日本の子どもは10のチームにわかれて、1日ヤップの村の家庭訪問を行うということになっていました。ところが訪問を受ける村や家庭では直前までそのことを知らず、村の女の人たちは日本の子どもがどういう目的でなぜ訪問しているのかわからないまま、とりあえず昼食を出した、という状況でした。村によっては何の準備もしておらず、インスタントラーメンを昼食に出されたチームもありました。この責任は村やヤップ州政府にあるのではなく、時間をかけてヤップ式の手順を踏んで誠意を込めてアプローチしなかった日本側にあります。「日本の子どもが来るからタダで昼食を出してやってくれといわれている」という話が私の耳にも入ってきました。いきなり押しかけてきて昼飯をタダで出せという客人を、誰が喜んで受け入れるでしょうか?

当地ではヤップの人々でさえ他所の村や家を訪問するときには必ず前もって連絡し許可をとっていきます。お互いのテリトリーを尊重するという風習が強く州政府ですらそれを無視できません。にもかかわらず、8月4日と8月5日、それぞれ50人近いこのプログラムのグループが、現地の案内人も伴わず3つの村を騒々しく通り抜けるという事件が起きました。その上彼らがボートの乗下船に使った浜は個人の所有で、併設の売店で物を買うか団体使用料25ドル払うかして休憩所の利用ができる場所なのですが、8月4日はいきなり上陸後、売店にいたオーナー家族への断りもなく、持ち込みの弁当を休憩所で食べました。8月5日には、やはりいきなり来て断りもなく1時間以上も休憩所でボートを待ちました。両日共に売店で物を買うことも使用料を支払うこともしませんでした。彼らがこの場所を使うことになった理由は、潮の高さを無視して組んだずさんなスケジュールのため、両日とも予定された浜にボートを寄せられなかったからです。その為に地元では突然の日本人団体の襲来に眉をひそめ、一方参加の子どもたちは炎天下を30分近く歩かされるはめになった訳です。こちらの人は不愉快に思っても直接にそれを表現しませんが、その印象は彼らの中にずっと残るのです。

3)参加した日本の子どもたちへの影響

私はこの地で長年各種のツアーを手がけておりますが、人的・環境的・施設的いずれの見地から見ても、ヤップは20人以上の団体ツアーに向いている場所とは思いません。それを押して一度に100人近い人数をさばくのですから、当然そのストレスは参加者にもかかります。そこでグループを半々に分けて交互にスケジュールを消化したのは良いアイディアでした。私はこのグループがヤップへ与えるインパクトについて非常に気になりましたので、空港の到着時やレストランでの食事風景など、できる限りのところで観察していました。しかし8月4日、私共のビジネスが入っているマリーナの桟橋から、グループの乗船を見るとは予想していませんでした。全長18フィート(6m)から24フィート(8m)の小舟に定員を大幅に上回って人員を搭載しているにもかかわらず、潮の高さを考えずに作成した彼らのスケジュール通りに事を運ぶため、外洋まで出て大まわりで予定の場所に到達しようというのです。それを聞いて、あきれを通り越して不安になりました。それでダイバーのお客様共々私どものボートも自主的に伴走して緊急時にそなえた次第です。添付CDの写真並びに地図その様子をご推察ください。5隻の小舟の3隻は日本製、2隻は現地製です。8月4日に使用した小舟の種類、エンジン、最大搭載人員、実際に乗せた最大人員は以下の通りです。

A. マリンシックス(日本製)18フィート+ヤマハ50馬力1機・最大搭載人員6人

実際に乗ったのはグループからの7人とオペレーター2人で計9人

B. マリンシックス(日本製)22フィート+ヤマハ100馬力1機・最大搭載人員8人

実際に乗ったのはグループからの18人とオペレーター2人で計20人

C. ヤマハ(日本製)24フィート+ヤマハ船外機100馬力1機・最大搭載人員11人

実際に乗ったのはグループからの12人とオペレーター2人で計14人

D. ローカル製19フィート+ヤマハ船外機40馬力1機・最大搭載人員推定5人

実際に乗ったのはグループからの7人とオペレーター2人で計9人

E. ローカル製19フィート+ヤマハ船外機30馬力1機・最大搭載人員3人

実際に乗ったのはグループからの3人とオペレーター2人で計5人

*この舟には最初計8人乗っていましたが、外洋に出て危険なため、ボートBに3人移動しました。

ちなみにヤップには、エンジン2機がけ屋根付きでツーリスト仕様の大型ボートを複数所持するツアーオペレーターは、私どもを含めて4社あります。このようなプロのオペレーターを通せば、潮とスケジュールの問題も事前に指摘できたでしょうし、より安全で質の高いツアーを提供されたはずです。なお乗船者が着ているライフジャケットはJICAの協力で運営しているFisheries Maritime Institute より貸し出されました。

さて8月5日にも同様のスケジュールでマリーナから出航しようとしましたが、既に潮は下げ始めリーフの中を通ってボートで目的地まで行くことは不可能、前日よりも波が高く定員オーバーの小舟で外洋を行くことは更に危険、そのことを私は声高にまわりの連中と話していました。側にいた「協会」に雇われた「元」ヤップ州勤務青年海外協力隊員の折衝担当者にも充分聞こえたはずです。突然予定変更になり、行きはバスになりました。後程関係者に聞いた話では、彼女はその後、潮の一番引いている時間帯に、訪問している浜へボートをまわすように無線で頼んできたそうです。それはなんとも無理なので、2)で述べたような事態になった訳です。たまたま友人に会うためにその休憩所に行った私は、子どもたちが炎天下でライフジャケットを来て長時間待たされているのを目撃しました。このような突然の予定変更は私の知るところではありませんので、この目撃は全くの偶然です。これをもって「つけまわされている」と感じるのであれば、小さな島で活動することをやめたほうがいいでしょう。

4)ヤップ州政府への影響

前述「協会」のウエブサイトによりますと、このプログラムは日本国外務省、ミクロネシア連邦、パラオ共和国の後援を受けているとなっています。在ミクロネシア連邦日本大使館2等書記官氏にそれを口頭で問い合わせましたところ、「在ミクロネシア日本大使館からミクロネシア連邦政府あるいは各州政府に具体的後援の要請を出した記録はない」との回答を得ました。外務本省筋からどのような依頼が各国・州にいっているかは存じません。しかし、このプログラムの旅行主催は旅行会社になっております。ということは、このプログラムの旅行に関するものはすべて旅行会社がビジネスとして執り行うものであるべきはずです。また参加した子どもからも一人7万5千円の参加費が旅行会社に支払われています。しかしヤップでのグループの動きを見ておりますと、宿泊・食事までは旅行会社の担当のようでしたが、現地アクティビティの部分がすっぽり旅行業界でいうところの「オプション」つまり現地調達になっているような印象を受けました。通常このようなオプションを旅行会社が手配するとき私どものような現地オペレーターに依頼があるのですが、このプログラムの場合「現地政府」がオプショナルアクティビティを「手配」することを「後援」によって期待したのでしょうか?それではその手配料やコストの支払いはどうなったのでしょう?もちろん「現地政府」は企業ではありませんから利潤収入をあげることはできません。ヤップ州庫にこの団体からの収入があったという記録はありません。

ところで、ヤップ側には「このプログラムには日本政府が絡んでいて、日本側関係者もボランティアで協力している。ヤップ州としても日本との親善友好関係を深め将来より援助を仰ぐためにも、全面協力をしないといけない。」という誤解がひろまりました。そこで「元」ヤップ州勤務青年海外協力隊員の存在が、より誤解を招いたように思われます。彼女に協力を頼まれたほとんどのヤップ人は、彼女がまだ現役の協力隊員であると信じていました。

「協会」からの要請を受けてヤップ州知事はタスクフォースチームを作りましたが、ヤップ側への情報は皆無に等しく「何をどう協力していいのかわからない状態」でグループを迎えたというのが現状です。「元」協力隊員の雇われ現地折衝担当者は、一週間も前にヤップ入りしているにもかかわらず、各ホテルに説明に行ったのは本隊到着の3日前、子どもたちが訪れる予定の村にも全く挨拶に行かず、ヤップ入り後数日間、彼女がどこで何をしていたかすら謎です。それにもかかわらず「(ヤップ州側が)何も準備していないんで、私も来て困ったわ」と、関係者に不満を言ったそうです。

グループ到着の2週間位前、私は「協会」の2001年度の予算書の一部を添付したレポートを作り、「この団体の予算は充分あるはずだから、提供したサービスには必ず正当な報酬を得るように」という提案を、関係するホテル、コミュニティにしました(添付資料その3)。表現に過激な点や一部情報不十分な点は認めますが、その主張は今でも間違っているとは思いません。ところが、私のレポートによってプログラムが大幅に妨害され、また私がグループをつけまわして写真を撮っているので子どもたちが非常な不安を抱いている、「ヤップ州政府として」即急に対処して欲しい、という内容の文書が、「協会」事務局長カンノ氏からヤップ州知事宛に、8月5日付けで提出されました(添付資料その2)。これには全く根拠がないばかりか、名誉毀損で訴えたいくらいの憤りを感じます。おそらく「元」協力隊員の雇われ現地折衝担当者が、自らの準備不足で起した多くのトラブルをすべて私のせいにする為に仕組んだ狂言を信じた結果だと思いますが、それにしても一NGOが訪問先の外国州政府首長に、自分の気にくわない人物(それも同国人)を「政府として=警察力で」排除してくれと要請するというのは異常です。実際私は「排除」されました()。しかしその後、ヤップ州当局との話し合いの中で、前述カンノ氏の文書、並びに私のレポートに対する「協会」からのリスポンスと称して配布された不思議な文書(添付資料その4)を入手することができました。それを元に、ヤップ州知事宛の文書を提出しました(添付資料その1)ご精読ください。

5)ヤップの人々の感想

このプログラムに関係した、あるいは傍観した、ヤップの人々の正直な疑問と感想のうち、主だったものを以下に挙げます。

**どうして日本に行ったヤップの子どもは11人で、日本から80人も来たのか?

**どうしてプログラム関係者自身が何度も事前にヤップに足を運び、地元と一緒に綿密な打ち合わせと準備をしなかったのか?

**日本の子どもは、どうしてトレイダズリッジのような高級ホテルで食事したのか?そんな金があるならどうして他を値切ったのか?

**80人の子どもに日本から医者も看護士も同行せず、クスリにも困っているヤップに負担させるなんて、どういうことだ?(初日に突き指をした子どもが出たとかで、翌日からヤップ州立病院が看護士と車を提供したことによります)

**友好親善プログラムといっても、やったことはただの団体観光旅行ではないか?

このたびの経験は、日本とヤップにとって非常に不幸なケースだったと私は考えます。以後これを教訓に、フェアな付き合いの上になりたつホンモノの友好と親善が、両国州の人々の間に築いていけますよう、関係機関の対応を切に願っております。

なおヤップ州知事への文書で私が約束しましたフォローアップレポート(英文)が完成次第、そのコピーをお送りいたします。それには、ヤップへ落ちた金などかなりの部分を数字で示そうと思います。つきましては、今年度の、財団法人世界青少年交流協会への「子どもゆめ基金」委嘱金額を明示していただけたら幸いです。手持ち資料の2001年度「協会」予算では、2億9千5百万円が「協会」に委嘱され、2001年度ジュニアサイエンスクルーズ事業に全額支出されております。また出所不明ではありますが、私のレポートに対する「協会」のリスポンスとして書かれヤップで出回った文書(添付資料その4-1 4-2 4-3 4-4)では、「予算は昨年度の半分」とも述べています。今年度の金額の明示がない場合には、これを元にレポートを書くつもりでおります。

私の連絡先は下記の通りです。私がここでご報告しました事柄にはすべて根拠があります。電子メイル、ファックス、郵便でのお問い合わせには、いつでも喜んで応答させていただきます。なお職務柄外出の場合も多いですので、お電話をいただいて不在の折りにはどうか伝言をお託けださい。以上、長文でたいへん失礼いたしました。

拙文の意を深くお汲みいただけるよう祈っております。

敬白

 

安井三惠(やすいみつえ)連絡先

P. O. Box 238, Colonia, Yap, FSM 96943

Tel/Fax: 691-350-3407

naturesway@mail.fm

添付: (その1) 安井三惠からヤップ州知事宛文書

(その2)財団法人世界青少年交流協会事務局長カンノ氏からヤップ州知事宛文書

(その3)安井三惠作成少年少女自然体験交流事業についてのレポート

(その4)上記安井レポートに対する「協会」レスポンス #1 #2 #3 #4

(その5) ヤップ地図

(その6)写真収蔵コンパクトディスク1枚

 

コピー: 文部科学省スポーツ・青少年局参事官

文部科学省スポーツ・青少年局青少年課

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